[2000.12.04]
  デジタルテキストの価値


 ▼スティーブン・キングの「オンライン断筆」から考える電子ブックの問題点(ZDNet News)
  http://www.zdnet.co.jp/news/0012/01/e_berst.html


 有料でテキストを売っているサイトがつぶれるのをみるのは何度目だろうか。しかも今度は,本が売れない時代に唯一売り物になっている,出版業界にとっては救い主とも云えるスティーブン・キングの失敗,だ。テキストの価値は,何処にありや。

 ホラー小説作家のスティーブン・キングは,自身のサイトで書簡体小説「ザ・プラント」をオンラインで自主出版していたが,物語が終わる前に中止すると発表した。電子ブックを読むためのデバイスの売り上げは低調で,電子ブックにある問題は多い。

 とても,残念なニュース。「ザ・プラント」は,8章立てで最初の3章が1ドル,残りの章が各2ドル。支払いは読者の良心に任せるという,いわばシェアウェアの小説版だった。サイトにはキングの言葉として「あなたがお金を払えば物語は続く,払わなければそこで物語は終わってしまう」とある(結局お金を払った人は46%だった)。物語は,8章のうちの6章ほどで終止符を打つ(6章は無料になりそう)。と云っても,説明としては,これはいったんお休みであって,1,2年後に再開されるとある。だが,どんな面白い小説であっても,結末を読むためだけに2年も待つ人はまれだろう。「プラント」は,枯れ果てたのだ。

 キングはこのオンライン出版のいちばんの目的として,現在の出版業界の外にいる無名のライターや,純文学作家などに,生活する糧を得る場所がある希望を与えられれば,と述べていた。悪く云えば中間搾取に過ぎない無能な編集者や出版社,取次を介すことなく,テキストを売買できるシステムがあれば,それを希望とできる人は多いだろう。…だが,失敗だった。そう,この場所はテキストを売り買いできる場所ではなかったのかもしれない。音楽のことばかりが取り上げられてきたが,テキストとて同じ。記事ではデバイスの話に終始しているが,それ以前に,コンテンツの売買という時点で,うまくいかないのだ。テキストを売り物にしたウェブサイト(ニュース系も含めて)で,まともにそれだけで収支が整っているところもない。私たちは,決して売り物にはならないデジタルなテキストを再認識すべきなのかもしれない。


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